ジェリー (Day 7 Part 1)

オーケストラメンバーと過ごして3日、私たちは彼らを教えることに慣れてきました。教える上で大事な音楽用語を、リンガラ語とフランス語で言えるようになり、彼らの生活や習慣についても少しずつ分かってきました。彼らが何度も何度も言うのは、自分たちはアマチュアで、楽器を教えてくれる先生は今まで一人もいなかった、ということ。基礎技術を教わりたいとどれだけ思っていたかを、事あるごとに私たちに表現する彼ら、個人レッスンで私たちが教えたことは、すぐにセクション全員にちゃんと行き渡っていました。

 

ファゴット奏者のジェリーが、オーケストラの中に長くいる人たちは、みんな子供たちに楽器を教えているんだ、と教えてくれました。「レッスン代はどうしているの?」と聞いてみた私に、笑顔で返ってきた答えは次のとおり。

「お金は誰も持っていないんだ。もちろん持ってたら少しもらいたい気もするけど、誰もお金は持っていないんだ。でもね、音楽を習いたいって言う人にはもちろん教えるよ!ノープロブレム!お金はいらない。僕たちに習って、このコミュニティに入るために必要なことは、僕たちのルールを尊重する、ということだけ。だらだらした怠け者はダメ。音楽をやるには頭がよくてきちんとしてなきゃね。あとは、音楽のためにたくさん練習すること。それだけだよ。」

 

一つの譜面台を5−6人の子供たちが囲んで、年上のミュージシャンが後ろからアドバイスをしている光景を毎日見ました。全員に楽器が行き渡っているわけでもありません。でも、子供たちは少ない楽器をみんなで回しながら、ずーーーっと練習し続けているのです。決して集中力が切れることもなく、一日中歌って、楽器を吹いているのです!

この光景を見ていて、どうしてみんなあんなにちゃんと楽譜が読めるのかも理解できました。だってあんなに練習しているんだから!レッスン中も、何回「休憩しない?」と聞いてみても返ってくる答えはいっつも「NO!」なのです!

 

ジェリーは、私たちがいることをすごく喜んでくれていました。なぜなら、たくさん学べるから。それからもっと子供たちを教えたいから。お金のためじゃなく、ジェリー曰く「だってそれがコンゴ人だから。」

さらにジェリーは、「音楽は僕たちに考える時間をくれるんだ。コンゴ人には考える暇がないんだよ、だから音楽をするのさ!」

彼らの宗教では踊ることが禁じられています。なぜならそれは「心から出るものじゃないから。」でも音楽をしながら『踊る』のはOK!なぜなら「それは心の中からにじみ出るものだから!」なんだそうです。

音楽がジェリーにとって、それから多くのオーケストラメンバーたちにとって、どれだけ特別なものかが分かってきました。音楽は、彼らが日常感じでいるものを、全員が全員を尊重する安全なコミュニティの中で消化し、表現する場なのです。その感覚はみんなにとってすごく特別で、だからこそあれだけ練習し、彼らの音楽コミュニティを次の世代に受け継ぎ、保存していくことに情熱を持っているのです。

 

ジェリーはコンゴ人はみんなフレンドリーで寛大だ、と言います。「みんなで、寝て、食べて、しゃべって音楽をすればいいんだ!」と。また彼は、「もしいつか自分にお金が出来たら、お金がない人と分かちあうよ。」と心から話してくれました。

でも、このジェリーの言うコンゴ人のあり方『私のものはあなたのもの。あなたのものは私のもの』を、キンシャサで働くNGOの人たちに話してみると、彼らはみんな笑って、「そうねー、最初のパートは会ってるけど、後のパートは違うわよー」と。(苦笑)

正直、コンゴ人の何%がこのジェリーの寛大な精神を持ち合わせているのかは分かりません。こんな精神は少しも存在しないコミュニティで働いているNGOの人にもたくさん会いました。『寛大さ』というもの自体が、上流階級の人が楽しむ贅沢品、と言う人もいるくらいですが、少なくとも、私の経験したコンゴ人コミュニティは全くそうではありませんでした。フルートやパスポートやお金を置いていても安全で、鉛筆の忘れ物まで届けてくれる、そんな人たちの集まりだったのです。でもそれは彼らが上流階級で裕福だからではありません。少なくてもお金という意味での裕福さはない。でも、彼らは心が裕福なのです。なぜかというと彼らには、情熱とコミュニティ、それから希望があるから。

 

ジェリーは、私たちがずっと不思議に思っていたことにも答えてくれました。

キンシャサに到着してからというもの、彼らのファッションセンスには驚かされっぱなし!キンシャサの人たちは身なりをすごく大事にしているようで、一体どうしてみんなあんなにファッショナブルなのかと不思議に思っていました。Kaoriがこの質問をすると、ジェリーはなぜかドキッとした様子で、「ちゃんと考えて明日答えるよ。」と言いました。

軽い気持ちで聞いたこの質問から返ってきたジェリーの答えに、私たちは本当に驚きました。

 

翌日戻ってきたジェリーは私たちにこう答えてくれました。

「まず始めに言っておきたいことは、この答えは昨日も今日も明日も同じだということ。」

続けて、「僕たちは肌の色を変えられない。黒人なんだ。何世代もね。そして僕たちコンゴ人はお金がない。ということは、仕事をどうにか探さなきゃいけない。探せなければ死んじゃうから。でもだからって僕たちは毎日こうやって(頭を下げて縮こまる姿勢を見せながら)歩かなきゃいけないわけじゃないんだ。こうやって歩けるんだ!(頭を上げて姿勢を正す)こうやって歩くには、きちんとした身なりで若々しくいなくちゃ。」

近くにいたオノレにも聞いてみたら、笑顔で「僕も同感だよ。」との答え。

 

もちろん、言葉のニュアンスまできちんと理解できたかは分からないし、彼らにとっても決して簡単に心地よくできる会話ではなかったでしょう。でもこの会話から学んだことは、彼らはすごくポジティブな人種であるということ。そしてそのポジティブさはコンゴで生きていく上で必要なのだということ。音楽はどう見ても、偉大な人になるとか、有名になるとか、お金持ちになる、といったゴールとはかけ離れています。でも音楽が、彼らの内なる精神を元気にし、コンゴ人としてのプライドを高めるだけでなく、感情を深い所で消化し、表現できる強さと心の大きさを持つ、寛大な人間にしているのです。このコミュニティは、みんなが繋がって、音楽的・人間的に調和し、お互いの人生を祝う場なのです。

 

「もっと長くいてくれれば、家に招待して、奥さんと子供たちに会ってもらえたのに。で、一緒に歌でも歌えたら幸せだなあ!」と言ってくれた、本当に素晴しい人間、ジェリー。その日がやってきますように!

また会おうね、ジェリー!

また会おうね、ジェリー!

- Nana